毎日食べるご飯。そのお米を一粒たりとも無駄にしたくないと考えたことはありますか?
世界では、まだ食べられるはずの食料が大量に捨てられています。
この深刻な食品ロス問題は、私たちの食生活だけでなく、地球環境にも大きな影響を与えています。
この記事では、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」に焦点を当て、食品ロス問題の現状と、私たちにできることをご紹介します。
SDGs目標12「つくる責任つかう責任」とは

2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。
17ある目標のうち、12番目の「つくる責任つかう責任」は、私たちの生活を支える製品をより効率的に、そして環境への負荷を減らして生産・消費していくことを目指しています。
世界的に人口増加の一途にある現代。
2024年時点で81億人、2030年には85億人に、2050年には97億人に達すると予測されています。
この状況から懸念されるのは、世界の人々の暮らしを支える資源の限界。食品をはじめとするあらゆる生活必需の材が枯渇してしまうことが心配されています。
つくる責任|生産プロセスで生まれてしまう廃棄物

食品の生産過程でいえば、収穫時の選別や加工過程での余剰など、様々な段階で廃棄物が出てしまいます。しかも国内の出荷量を分析したデータによると、生産段階での食品ロスはほとんど解決されていないことが見えてきました。
生産段階の廃棄物は、貴重な資源の無駄遣いをしているだけでなく、環境にも大きな負荷をかけています。したがって、資源をつくり出していく生産者にこそ、より質が高く、より多くの資源の開発に努力する、いわゆる「つくる責任」が望まれているのです。
参考:農作物の 生産現場で 発生する 食品ロス – 東京農業大学
つかう責任|消費プロセスに存在する資源ロス

消費者が食品を購入した後、消費期限切れや食べきれずに捨ててしまうなど主に家庭で生まれる食品ロスも深刻な問題です。
例えば日本国内では1人あたり毎日おにぎり1個(103g)、世界全体みれば人の消費のために生産された食料のおよそ⅓を廃棄している状況です。
国内の家庭系食品ロスの総量はおよそ236万トン(令和4年推計)、実は日々の暮らしの中だけで全体の50%にも及ぶ食品ロスを生み出しているのです。

参考:今日からできる!家庭でできる食品ロス削減 – 政府広報オンライン
食品ロス問題は喫緊の課題
特に食品ロスは、この目標12の達成における大きな課題の一つとして挙げられています。
それこそ、生産された食品の廃棄による温室効果ガスの総排出量は、世界全体で約33億トンにも。
食品ロス自体が、食料問題、環境問題、経済問題など、様々な側面から社会に大きな影響を与えているのです。
実際には食料が十分に供給されているにもかかわらず、多くの人々が飢餓に苦しんでいるという現状と、一方で大量の食料が廃棄されているという現状は、非常に矛盾しています。
だからこそ持続可能な社会実現のため、食品産業においては生産と消費の繋がりを見直し、より循環される形にシフトしていくことが求められています。
食品ロス問題の現状

SDGs目標12「つくる責任つかう責任」が目指す社会を実現は、環境への負担軽減だけでなく、生産者・製造業者・流通業者にとって経済的損失を減らし、さらに利益をもたらす可能性を含んでいます。
ここでは目標達成のために、今注目すべき国内外の課題の現状について解説します。
日本の食品ロス
日本国内でも、年間約643万トンもの食品が廃棄されていると推定されています。
これは、国民一人あたり、毎日お茶碗一杯分のご飯を捨てている計算になります。
食品ロスというと、飲食店などの外食産業の廃棄が多いイメージがありますが、実は家庭での食品ロスが最も多く、まだ食べられるのに捨てられてしまう『食べ残し』だけで年間100万トンも存在しています。

参考:今日からできる!家庭でできる食品ロス削減 – 政府広報オンライン
しかし日本でも2019年に「食品ロス削減推進法*」が成立するなど、行政と食品関連事業者と消費者が繋がり、国全体で食品ロスを削減するための取り組みが動き始めています。
*食品ロス削減推進法…食品ロスの削減の推進に関する法律。地方自治体に、政府が策定した食品ロス削減のための基本方針を踏まえて削減推進計画を策定し、実施することを義務づける。
海外の食品ロス
海外でも食品ロス問題は深刻です。日本の約3倍の人口を擁するアメリカでは(約3億3,650万人・2024年6月推計)年間で約4億トン、日本以上に多くの食品が廃棄されており、これは世界の食料援助量*の約3倍に相当します。ヨーロッパやアジアでも、同様の状況が報告されています。
しかしアメリカでは、農産物の保存期間を長く保つための開発や食品容器や期限表示の見直し、昆虫ミールを利用した動物飼料などの変わったものまで、国家戦略として積極的に食品ロスの削減に取り組んでいる。
食品ロスの改善は環境的・経済的にもとても負担が大きい。特に先進国にとってはその削減なしに国の発展はない、と考えられているようです。
*食糧援助…食糧不足に直面している開発途上国に対し、米、小麦、トウモロコシなどの穀物の支援を目的とした無償資金協力のこと。(一般財団法人 日本国際協力システム)
そもそも食品ロスはどの段階で生まれる?
日本国内の品質基準は、3分の1ルール*をはじめとし、世界的に見てもかなり厳しいと言われています。
それは生食を好んで食べたり、〜理由から衛生的であったりと、それは日本の誇らしい文化の一つです。しかしそのような厳しい基準によって、食品ロスが増加を招いてしまった側面もあります。ここでは食品の生産から消費までを3つの段階に分け、各段階で発生している廃棄物についてご紹介します。

*3分の1ルール…製造日から賞味期限までの合計日数の3分の1を経過した日程までを納品可能な日とし、3分の2を経過した日程までを販売可能な日とするルール。現在ではルールの緩和が推進され、独自の期限基準を設けている事業者も多い。
生産段階でのロス
- 収穫時の選別
農産物は出荷時に、定められた規格(大きさ・形・色など)から外れたものや傷がついているものが選別され、味などの品質に差がないにも関わらず、多くは廃棄されています。
こうした規格は品質の安定化や流通の効率化を目的として定められたものです。
一部は加工品や肥料等に用いられることもありますが、こうした農産物を全て活用することは難しく、生産者の悩みの一つにもなっています。

- 食品加工・製造時
食品加工や調理・製造時にも、割れた・欠けたなどの見栄えの都合や余剰生産、食材の切れ端など、まだ食べられるのにも関わらず、どうしても捨てられてしまう食品があります。
これらはアウトレット商品としての販売や社内販売として使用されるケースもありますが、やはり全てを活用することは難しいのが現状です。

流通段階でのロス
- 輸送中の破損
ほとんどの農産物や加工食品は、市場や卸業者、最後には消費者のもとへ届けるために各地へ輸送されます。ただし、輸送中に一部の商品が傷ついたり、変質したりしてしまうことは避けられず、その場合も規格外品として廃棄されてしまいます。

- 売れ残り
生産された食品が購入に至らず、販売・賞味期限が迫ったり、返品が原因で廃棄される場合もあります。
販売店では過去のデータを元に、あらかじめ消費者の購入品を予測し仕入れを行いますが、予測には必ず誤差が生まれます。
こうした食品関連事業者からの食品廃棄物の年間発生量の割合は、3業種(製造・卸売・小売)合計でおよそ94万トンにも及びます。

消費段階でのロス
- 外食産業
飲食店では主に、提供された料理の食べ残しや調理段階での作り過ぎ等によって食品ロスが発生します。また提供方法についても、小盛り・小分けのメニューを活用しつつ、適量注文や食べ残しをしないよう声掛けを行うなどの工夫が重要視されています。また外食事業者においては、販売予測の精緻化も食品ロス削減のために有効といえます。

- 家庭の余剰食品
ご家庭で買ったりもらったりした食品が使いきれずに腐らせてしまったことが、少なからず誰しも経験したことがあるのではないでしょうか。
また消費期限と賞味期限の違いを理解せず、食べられる食品を捨ててしまったという方もいらっしゃると思います。
家庭で発生する食品ロスを減らしていくためには正しい保存方法を知ること、そしてそれぞれの生活スタイルに合った消費計画を立てることが大切です。

- 食べきりへの意識の低さ
家庭系食品ロスの内訳をみると、買いすぎ食材などの「直接廃棄」や、端野菜などの「過剰除去」、そして「食べ残し」が最も多くなっています。
料理を作りすぎたり、特売品などを大量に購入したりして、食べきれない食品が出てしまうことが原因として考えられます。
例えば買い物にいく前に家にある食材をチェックしておくなど、不要なものを買わない、使い切れる分だけの購入ができるように注意することが大切です。

日本国内では、そのおよそ40%がこの消費段階に生まれています。
さらに先進国では、消費者の多様なライフスタイルや嗜好に対応しようと多くの食品が生産・供給され、さらに食品ロスを増加させている傾向が見られます。
食品ロス削減に向けた国内の取り組み
2024年現在、日本国内でも食品ロスの削減に向けたあらゆる取り組みが行われています。ここでは民間企業が行っている活動事例をご紹介します。
事例1|生産者と消費者を繋ぐ仕組み
スマートフォンアプリやインターネットを活用し、「フードシェアリングプラットフォーム」という新たな仕組みが活用されています。
生産段階での規格外品の情報を共有したり、食品ロス削減に関する情報を発信したりする取り組みです。インターネットで生産者と消費者をマッチングさせることができれば、生産者は廃棄される予定だったものを速やかに販売することができ、消費者は低価格で食品を購入することができるため、どちらにもメリットがあります。
このように食品産業の各段階における様々な事業者を繋ぐことにより新たな市場を形成し、食品ロスの削減に貢献しています。

TABETE – 食品ロスを削減するフードシェアリングサービス
事例2|余った食品を新たな消費者へ
「フードバンク」では、食品メーカーやスーパーマーケットをはじめとする民間企業から各家庭(※新鮮、消費期限内、未開封など諸条件あり)まで、各所で余った食材を回収し、実施団体を通して、福祉施設や生活困窮者へ無償で提供する活動を行っています。
近年では全国に店舗を有する企業がその店舗数を活かし、回収活動を行う例もあります。
今全国的にその活動が広まりつつあるフードバンクですが、その認知度は44.6%(2020年)に止まり、まだ世間に広く知られているとは言えません。「家庭で余った食品は、フードバンクに寄付する」ということが当たり前に行われるような未来を目指していきたいですね。

事例3|食品ロス削減に関する法整備
2019年5月31日に「食品ロスの削減の推進に関する法律」(略称 食品ロス削減推進法)」が制定されました。
これは食品ロスの削減について、国や各地方公共団体等の状況に合わせて食品ロスの削減に関する考え方の方針や基本を決め、食品ロスの削減を総合的に推進することを目的としています。
このように食品廃棄物の削減を義務化する法律の制定や、食品表示に関する規制の見直しなどが現在も検討されています。


世界の現状は?食品ロス削減に向けた国際的な取り組み
食品ロス問題とは、先進国を中心に世界的に抱えている重要課題です。他国ではどのように取り組みを進めているのでしょうか。ここでは国際的機関が行っている活動の一部をご紹介します。
事例4|国連食糧農業機関(FAO)の活動
世界194ヵ国(2023年)が加盟するFAOは、世界の食料問題解決および食品ロス削減のため、1960年代後半から様々な取り組みを行っています。
開発途上国への支援を中心として、国際機関から放牧民、農民に至るまで食料チェーンにおける様々な担い手との連携やサプライチェーンへの介入、現実的な事業計画の作成などを行っています。これまでに250以上のプロジェクトが実施されました。

国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所 – 国連広報センター
事例5|EUの食品廃棄物削減目標
EUは、2030年までに食品廃棄物を加工・製造で10%、小売・消費(レストラン、食品サービス、家庭)で合わせて30%(一人当たり)削減することを目標としています。
実はEUでは、生産される食料の約40%が食べられることなく捨てられており、一人当たりおよそ年間173kgの食品ロスが発生していると言われています。
この数値は日本の食品ロス量のおよそ4倍以上。専門のプラットフォームを立ち上げたり、廃棄物発生の規制強化により食品ロスを防止する取り組みを強化しています。

フランスでは2016年に「食品廃棄禁止法」が成立。パリ18区にあるレストランでは「みんなの冷蔵庫」と呼ばれる取り組みが実施されています。
必要なのは一人ひとりの意識!個人でもできる取り組み
「つくる責任つかう責任」の課題は、企業や国だけの話ではありません。消費者である私たち一人ひとりの意識がとても重要です。ここでは今日から始められる、手軽な取り組みをご紹介します。
事例6|冷蔵庫の整理
定期的に冷蔵庫の中身の見直しは、消費者庁でも呼びかけられています。
気づくとこれはいつ食べるのだろう?、同じ食品がいくつもある、なんてことも。
冷蔵庫や保存庫が整理されていると、欲しい食材がすぐに見つかり、買い物前の食材チェックもしやくすく、無駄買い防止にも繋がります。
また食品の保存期限については「賞味期限」を過ぎた食品はまだ食べられますので早めに使用し、「消費期限」が過ぎた食品は食べずに廃棄しましょう。

事例7|レシピの見直し
ご家庭によっては家計の節約などのため、作りおきや大皿料理を作ることがあるでしょう。
しかし多めに作った料理が食べきれずに冷蔵庫に余ってしまうなんてことも。
特に保存が難しい夏場など、季節や体調に合わせて作る量を工夫することも大切です。また必要な量だけ作るようにレシピを見直しましょう。

持続可能な社会に向けて、私たちが果たす役割
SDGs目標12「つくる責任つかう責任」は、世界の人口増加に伴い、資源の枯渇が懸念される中、製品の生産・消費を効率化し、環境への負荷を減らすことを目指しています。
特に食品ロスは、温室効果ガスの排出や食料問題など、社会に大きな4影響を与えています。
食品ロス削減に向けた取り組みは、国や企業だけでなく、私たち一人ひとりの意識改革も重要です。
冷蔵庫の整理や、レシピの見直しなど、日常のちょっとした工夫から始めることができます。
フードシェアリングやフードバンクなどの取り組みも活発化しており、社会全体で食品ロス削減への意識が高まっています。
持続可能な社会の実現のためには、私たち一人ひとりが食品ロス問題に関心を持ち、行動することが求められています。