50年で世界人口は2.4倍に増加。かつてないスピードで増加を続ける世界人口は、地球規模の食糧問題に深刻な影響を与えています。食料の生産、分配、消費のあり方が問われる中、この人口増加が食糧問題にどのような影響を与えているのでしょうか?
NPO法人MOTTAIは、「もったいない」の心を大切に、食品ロス削減をはじめとする様々な活動を通して食料問題の解決に取り組んでいます。この記事では、世界的な人口増加が食糧問題に与える影響を様々な角度から分析し、私たちができることを探ります。
- 世界の食糧に関する諸問題
- 世界各地で起こる人口爆発の影響
- 食糧問題を深刻化させる原因
- 世界中の企業・団体で行われている取り組み5つ
世界の食糧に関する諸問題
世界の食糧問題は、単に食料が不足しているという単純な構図ではありません。食料の生産、流通、消費、そして分配といった様々な要素が複雑に絡み合っており、その解決には多角的な視点からの取り組みが不可欠です。
問題点1|食糧不足による栄養不足・飢餓状態
食糧不足は、深刻な栄養不足と飢餓状態を引き起こします。特に発展途上国では、慢性的な食糧不足により、必要な栄養素を十分に摂取できない人々が多く、発育阻害、免疫力低下、疾病リスクの増加など、深刻な健康被害をもたらしています。
FAO(国連食糧農業機関)の報告によると、2022年には世界で約7億3500万人が飢餓に苦しんでおり、これは世界人口の約9人に1人に相当します。
栄養不足は、特に子どもたちの身体的・精神的な発達に深刻な影響を与え、将来に渡って様々な困難を抱える可能性があります。飢餓は単に空腹を満たせない状態ではなく、生命の危機に直結する深刻な問題です。

橙線:飢餓人口の割合 黒線:飢餓人口 (世界の食料安全保障と栄養の現状2022(SOFI)報告書)
問題点2|需要と供給バランスの崩壊
世界的な人口増加、気候変動、紛争、経済状況の変動など、様々な要因によって食料の需要と供給のバランスが崩壊しています。人口増加は食料需要の増大に直結し、既存の食料生産システムへの負荷を高めます。
特に、気候変動による干ばつや洪水、異常高温などの異常気象は、農作物の生産に壊滅的な打撃を与え、食料価格の高騰や供給不足を引き起こし、最も脆弱な立場の人々を苦しめます。
問題点3|先進国と発展途上国の食糧問題の違い
先進国では、過剰な食料消費や食品ロスが大きな問題となっています。日本では年間約612万トンもの食品ロスが発生しており、これは国民一人当たり毎日お茶碗一杯分の食べ物を捨てている計算になります。(「食品ロス量(令和3年度推計値)」農林水産省より)
一方、発展途上国では、食料生産能力の低さ、貧困、インフラの未整備、紛争などが食糧不足の根本的な原因となっています。また、先進国の食生活の変化(肉食中心など)が、発展途上国の食料生産や環境に影響を与えている側面もあります。
このように、食料問題は、国や地域によって異なる様相を呈しており、それぞれの状況に合わせた対策が必要です。
左から:性別、居住地、貧困状況、農地所有状況、貧困状況×農地所有状況
世界各地で起こる人口爆発の影響
世界人口は増加の一途を辿っており、この人口増加は地球規模の様々な課題に深刻な影響を及ぼしています。
特に発展途上国における急激な人口増加、いわゆる「人口爆発」は、食糧問題をはじめ、水資源、エネルギー、環境など、多岐にわたる分野で深刻な影響を及ぼすことが懸念されています。ここでは、この人口爆発が世界各地にもたらす具体的な影響について、多角的に考察していきます。
影響1|人口増加の未来予想
国連の推計によると、世界人口は2050年には約97億人に達すると予測されています。特に、アフリカやアジアなどの発展途上国で人口増加が著しく、これらの地域では食糧需要の急増が予想されます。
このような人口増加は、食料生産だけでなく、水資源やエネルギー資源など、様々な資源への負荷を高めることになります。
影響2|加速する食糧問題
人口増加は食料需要の増大に直結し、既存の食料生産システムへの負荷を高めます。特に、食料生産に適さない地域や、気候変動の影響を受けやすい地域では、食糧不足が深刻化する可能性が高まります。
また、人口増加に伴い、農地開発が進むことで、森林破壊や生物多様性の損失などの環境問題も深刻化する可能性があります。
影響3|発展途上国で暮らす子供たちへの影響
人口増加と食糧不足は、特に発展途上国で暮らす子どもたちに深刻な影響を与えます。栄養不足による発育阻害、感染症のリスク増加、教育機会の喪失など、子どもたちの健やかな成長を阻害する要因となります。また、食糧不足は、子どもたちの将来の可能性を奪い、貧困を次の世代へ連鎖させてしまう可能性があります。

4|先進国における食の課題
先進国では、過剰な食料消費や食品ロスが問題となっていますが、人口増加はこれらの問題をさらに悪化させる可能性があります。食料需要の増加に伴い、食料生産における環境負荷も増大し、持続可能な食料システムへの移行がより一層求められます。
また、食料価格の高騰は、低所得者層の食生活に影響を与える可能性があります。
食糧問題を深刻化させる原因
食糧問題は、人口増加という要因に加えて、自然災害、価格高騰、食品廃棄など、複数の要因が複雑に絡み合って深刻化しています。これらの要因は相互に影響し合い、問題をさらに複雑にしているのが現状です。
原因1|自然災害等による不作
干ばつ、洪水、異常気象などの自然災害は、農作物の生産に壊滅的な打撃を与え、食料不足を引き起こします。特に、発展途上国では農業が主要な産業である場合が多く、自然災害の影響は深刻です。
気候変動の影響により、これらの自然災害の頻度と深刻さは増しており、食糧問題への影響も深刻化しています。
近年では、気候変動に加え、砂漠イナゴの大量発生なども農作物に大きな被害を与えており、食糧問題の深刻化に拍車をかけています。土壌の劣化や水不足も、農業生産に悪影響を与え、不作に繋がる要因となります。これらの複合的な要因が重なり、食料生産の不安定性が増しています。
原因2|国際的な価格高騰
食料価格の高騰は、特に貧困層の食生活を直撃し、食糧不足を深刻化させる要因となります。原油価格の高騰は、輸送コストや肥料価格の上昇を通じて食料価格に影響を与えます。
また、投機的な取引も、食料価格の乱高下を引き起こす要因の一つです。気候変動による不作は、供給量の減少を通じて価格高騰を招きます。
さらに、近年では、地政学的リスクや国際情勢の不安定さも、食料価格に影響を与える要因として注目されています。これらの要因が複合的に作用し、食料価格は不安定な状況にあります。

原因3|食品廃棄物の増加
食品廃棄物は、貴重な資源の無駄遣いだけでなく、環境負荷も問題となっています。食品の生産、流通、消費の各段階で発生する食品ロスを削減することは、食糧問題の解決に貢献します。
生産段階では、収穫時のロスや規格外品の廃棄などが問題となります。流通段階では、輸送中の破損や保管状態の悪化などが原因となります。消費段階では、家庭での食べ残しや外食時の過剰な注文などが食品ロスにつながっています。
食品廃棄物の焼却処分は、温室効果ガスの排出にもつながり、気候変動を加速させる要因の一つとなります。食品ロス削減は、資源の有効活用と環境負荷軽減の両面から重要な課題です。
世界中の企業・団体で行われている取り組み5つ
食糧問題は地球規模の課題であり、その解決には国際的な協力と様々な主体による取り組みが不可欠です。ここでは、食糧問題解決に向けて世界中で行われている代表的な取り組みを5つご紹介します。
事例1|国際援助機関による食糧問題へのアプローチ
FAQ(国連食糧農業機関)、WFP(国連世界食糧計画)、IFAD(国際農業開発基金)などの国際援助機関は、食糧問題の解決に向けて中心的な役割を果たしています。FAOは、食料と農業に関する情報収集・分析、政策提言、技術支援などを行っており、世界の食料安全保障の向上に貢献しています。WFPは、緊急食料支援、学校給食プログラム、栄養改善プログラムなどを通して、飢餓と栄養不良の撲滅に取り組んでいます。IFADは、開発途上国の貧しい農村地域における農業開発と農村部の貧困削減を支援しています。これらの機関は、それぞれの専門性を活かし、連携しながら食糧問題に取り組んでいます。
事例2|ワールド・ビジョンによる食糧問題へのアプローチ
ワールド・ビジョンは、キリスト教精神に基づいて活動する国際NGOです。地域に根ざした開発援助活動を通して、貧困、飢餓、紛争などの問題に取り組んでいます。食糧問題に関しては、農業技術の向上支援、収入向上支援、災害時の緊急食料支援、栄養改善プログラムなどを実施しています。特に、子どもたちの健やかな成長を支援することに重点を置いており、教育、保健、水衛生などの分野でも活動を展開しています。地域住民と密接に連携し、持続可能な開発を目指しているのが特徴です。

事例3|JICAによる小規模農家向け市場志向型農業の振興
JICA(国際協力機構)は、日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関です。開発途上国の経済社会開発への協力を通して、国際社会の平和と繁栄に貢献しています。食糧問題に関しては、小規模農家向けの市場志向型農業の振興を支援しています。これは、農家が市場のニーズを把握し、それに応じた作物を生産することで、収入向上と食料供給の安定化を目指す取り組みです。具体的には、農業技術の研修、灌漑設備の整備、農産物の流通・販売支援などを行っています。

事例4|国連WFPによる食糧支援
WFP(国連世界食糧計画)は、飢餓と闘う国連の食料支援機関であり、緊急時の食料配給から、栄養改善、学校給食、災害復興支援まで、幅広い活動を展開しています。紛争や自然災害などの緊急時には、迅速に食料を被災地に届け、人々の命を守る活動を行っています。また、長期的な視点からは、地域社会の自立を支援するプログラムや、食料生産の向上を支援する活動も展開しています。WFPは、世界各地で飢餓に苦しむ人々にとって、最後の砦とも言える存在です。

事例5|世界中の社会的・環境課題に取り組むThe Consumer Goods Forum
CGF(The Consumer Goods Forum)は、世界中の消費財メーカーや小売業などが参加するグローバルな組織です。持続可能な消費と生産を推進しており、食品ロス削減、森林保護、人権尊重など、幅広い課題に取り組んでいます。食糧問題に関しては、食品ロス削減のためのガイドライン策定や、サプライチェーンにおける持続可能性向上に向けた取り組みなどを推進しています。企業間の連携を促進し、業界全体で持続可能性への取り組みを進めているのが特徴です。

人口爆発による食糧問題、そして私たちの役割とは
世界の食糧問題は、単一の原因で説明できるものではなく、人口増加、気候変動、貧困、紛争など、様々な要因が複雑に絡み合って深刻化しています。そのため、問題解決には、国際的な協力、政府の政策、企業や団体の取り組み、そして私たち一人ひとりの意識と行動の変化が必要です。
この記事で紹介した取り組み事例は、食糧問題解決に向けた様々なアプローチを示しています。これらの事例から学び、私たちにできることを実践していくことが、持続可能な未来への第一歩となります。
NPO法人MOTTAIは、食品ロス削減を中心とした活動を通して、食糧問題の解決に貢献しています。私たちの活動は、皆様からのご支援によって支えられています。ぜひ、MOTTAIの活動にご注目いただき、ウェブサイトやSNS等で情報をご覧いただければ幸いです。また、ご寄付やボランティアでのご参加も心よりお待ちしております。皆様のアクションが、世界の食糧問題解決への大きな力となります。