世界では、食糧不足や栄養失調に苦しむ人々がいる一方で、大量の食品ロスが発生するなど、食糧をめぐる問題は深刻です。この問題は、単に食べ物が足りないというだけでなく、子供たちの成長や健康、ひいては社会の安定にも大きな影響を与えています。
近年、この食糧問題の解決策の一つとして、「昆虫食」が注目を集めているのをご存知でしょうか?昆虫は栄養価が高く、環境負荷も少ないことから、持続可能な食料源として期待されています。
この記事では、世界の食糧問題の現状と課題、そしてその解決策の一つとして注目される昆虫食について、メリット・デメリットを含めて詳しく解説します。この記事を通して、世界の食糧問題に関心を持ち、私たちにできることを一緒に考えてみませんか?
- 世界の食糧に関する諸問題
- 食料問題が及ぼす「子供」たちへの影響
- 食糧問題を解決するために世界中で行われている取り組み
- なぜ昆虫食が注目されているのか
- 昆虫食のデメリット
- 昆虫食における企業の活用事例3つ
世界の食糧に関する諸問題
世界の食糧問題は、単に食料の絶対量が不足しているという単純な問題ではありません。食料の生産、流通、消費、そして分配といった様々な要素が複雑に絡み合っており、その解決には多角的な視点からの取り組みが不可欠です。
問題点1|食糧不足による栄養不足・飢餓状態
食糧不足は、深刻な栄養不足と飢餓状態を引き起こします。
特に発展途上国では、慢性的な食糧不足により、必要な栄養素を十分に摂取できない人々が多く、発育阻害、免疫力低下、疾病リスクの増加など、深刻な健康被害をもたらしています。国際連合食糧農業機関(FAO)によると、2022年時点で世界の飢餓人口は約7億3500万人とされており、11人に1人が食べることに苦しんでいるという状況です。栄養不足は、特に子どもたちの身体的・精神的な発達に深刻な影響を与え、将来に渡って様々な困難を抱える可能性があります。飢餓は単に空腹を満たせない状態ではなく、生命の危機に直結する深刻な問題です。

橙線:飢餓人口の割合 黒線:飢餓人口 (世界の食料安全保障と栄養の現状2022(SOFI)報告書)
問題点2|需要と供給バランスの崩壊
世界的な人口増加、気候変動、紛争、経済状況の変動など、様々な要因によって食料の需要と供給のバランスが崩壊しています。特に、気候変動による干ばつや洪水、異常高温などの異常気象は、農作物の生産に壊滅的な打撃を与え、食料価格の高騰や供給不足を引き起こし、飢餓の危機にある貧困状況の人々の生活をさらに苦しめます。また、先進国における肉食中心の食生活は、飼料穀物の需要を増加させ、発展途上国における食料価格の高騰を招く要因の一つとなっています。
問題点3|先進国と発展途上国の食糧問題の違い
先進国では、過剰な食料消費や食品ロスが大きな問題となっています。日本では年間約612万トンもの食品ロスが発生しており、これは国民一人当たり毎日お茶碗一杯分の食べ物を捨てている計算になります。(「食品ロス量(令和3年度推計値)」農林水産省より)一方、発展途上国では、食料生産能力の低さ、貧困、インフラの未整備、紛争などが食糧不足の根本的な原因となっています。また、先進国の食生活の変化(肉食中心など)が、発展途上国の食料生産や環境に影響を与えている側面もあります。このように、食料問題は、国や地域によって異なる様相を呈しており、それぞれの状況に合わせた対策が必要です。
左から:性別、居住地、貧困状況、農地所有状況、貧困状況×農地所有状況
食料問題が及ぼす「子供」たちへの影響
食糧問題は、特に子どもたちの生存、成長、発達に深刻な影響を与えます。子どもたちは大人に比べて栄養不足の影響を受けやすく、その影響は生涯に渡って残る可能性があります。
影響1|世界の4人に一人が「重度の食の貧困」
ユニセフの報告によると、世界の子どもの約4人に1人が「重度の食の貧困」に直面しており、これは、成長と発達に必要な最低限の栄養を満たすことができない状態を指します。これは単に食事の回数が少ないだけでなく、食事の内容が極めて偏っており、必要な栄養素を十分に摂取できていない状態を意味します。このような状況は、子どもたちの身体的・精神的な発達に深刻な影響を及ぼし、将来の可能性を大きく損なうことになります。
影響2|成長期の栄養不足による重大な発達の遅れ
成長期の子どもにとって、栄養不足は身体的・精神的な発達に重大な影響を及ぼします。発育阻害(低身長)、免疫力低下、学習能力の低下、認知機能の発達遅延など、将来に渡って様々な困難を抱える可能性があります。特に、最初の1000日間(妊娠期間から2歳まで)の栄養状態は、その後の人生に大きな影響を与えると言われています。この時期に十分な栄養を摂取できないと、不可逆的な発達の遅れが生じる可能性もあります。

影響3|幼い命を奪う「消耗症」の発症リスク
重度の栄養不良は「消耗症」と呼ばれる状態を引き起こし、幼い命を奪う深刻なリスクとなります。消耗症は、免疫力の著しい低下を招き、下痢や肺炎などの感染症に対する抵抗力を著しく弱めます。これにより、幼い子どもたちが命を落とすケースは後を絶ちません。消耗症は、早期に適切な治療を受ければ回復する可能性もありますが、医療へのアクセスが限られている地域では、深刻な問題となっています。
左から:急性栄養失調の6〜59ヶ月児の数、急性栄養失調の妊婦または授乳中の女性
食糧問題を解決するために世界中で行われている取り組み
食糧問題は複雑な要因が絡み合っているため、単一の解決策で全てを解決することは困難です。そのため、世界中で様々なアプローチによる取り組みが行われています。ここでは、代表的な取り組みとして、食糧支援、栄養教育、そして昆虫食の3つの事例を紹介します。
事例1|食糧支援
食糧支援は、飢餓や栄養失調に苦しむ人々へ直接食料を届ける活動です。特に緊急性の高い状況、例えば自然災害や紛争などで食料供給が途絶えた地域では、人命救助のために不可欠な支援となります。
具体的な活動内容
食料の配給
国連世界食糧計画(WFP)などの国際機関やNGOが中心となり、食料を被災地や飢餓地域に輸送し、配給を行います。
学校給食プログラム
子供たちの栄養状態改善と就学率向上を目的として、学校で給食を提供するプログラムです。WFPなどが中心となって実施しています。
食料引換券の配布: 現金や食料引換券を配布することで、被支援者が地域の市場で必要な食料を購入できるようにする支援方法です。地域の経済活性化にも繋がります。

事例2|栄養教育
栄養教育は、人々が健康的な食生活を送るための知識やスキルを身につけることを目的としています。単に食料を提供するだけでなく、人々が自ら食生活を改善できるように支援することで、持続的な効果が期待できます。
具体的な活動内容
栄養に関する講習会やワークショップ
適切な栄養バランスや食料の保存方法などを教えることで、栄養不足や食料ロスを防ぎます。
学校での食育
子供たちに食の大切さや栄養について教えることで、将来にわたって健康的な食生活を送るための基礎を築きます。
地域に根ざした食生活の普及
地域の食材や食文化を活かした栄養改善プログラムを実施することで、持続可能性を高めます。
実はかつての日本も、戦後の深刻な栄養不足、炭水化物への偏重と塩分摂取過剰等、各時代で食事と栄養に関する多くの課題を抱えていました。
これらは食事・人材・エビデンス重視の栄養政策をはじめ、母子手帳の活用、学校給食を含む食育の推進、生活改善普及事業、手洗いの習慣化によって克服してきた経緯があります。
栄養課題に直面する発展途上国に対し、これらの経験を共有・活用する取組は成果を上げており、人間の安全保障の推進等からも大きな意義あるとされています。
事例3|昆虫食
昨今、昆虫食は栄養価が高く環境負荷も少ないことから、将来の食料源として注目されています。特に人口増加に伴う食料需要の増大や、気候変動による食料生産への影響が懸念される中で、持続可能な食料供給に貢献することが期待されています。
具体的な利点
高い栄養価
昆虫はタンパク質、ビタミン、ミネラルなどを豊富に含んでいます。種類によっては、牛肉や魚肉よりも多くのタンパク質を含むものもあります。
環境負荷の低さ
従来の畜産に比べて、飼育に必要な資源(水や飼料など)が少なく、温室効果ガスの排出量も少ないため、環境負荷が低いと言われています。
飼育効率の高さ
昆虫は成長が早く、繁殖力も高いため、短期間で大量に生産することが可能です。
なぜ昆虫食が注目されているのか
近年、昆虫食が食糧問題の解決策の一つとして注目を集めています。ここでは、昆虫食が注目される理由について解説します。
昆虫食とは
昆虫食とは、昆虫を食用とすることです。世界各地で古くから昆虫を食べる文化があり、現在でも約20億人が日常的に昆虫を食べていると言われています。近年、食糧問題や環境問題への関心の高まりから、昆虫食が改めて注目を集めています。
高い栄養価
昆虫は、タンパク質やビタミン、ミネラルなど、人間にとって必要な栄養素を豊富に含んでいます。種類によっては、牛肉や魚肉よりも多くのタンパク質を含むものもあり、効率的な栄養補給が可能です。
環境に優しい
昆虫は、飼育に必要な資源(水や飼料など)が少なく、温室効果ガスの排出量も少ないため、環境負荷が低い食料源と言われています。従来の畜産に比べて、環境への影響を抑えながら食料を生産できる点が、昆虫食の大きなメリットです。
注目される昆虫食の将来性
昆虫食は、食糧問題と環境問題の両方に貢献する可能性を秘めています。人口増加に伴い食料需要が増大する中で、持続可能な食料源として昆虫食の役割はますます重要になると考えられます。

昆虫食のデメリット
昆虫食には多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。ここでは、昆虫食の主なデメリットを3つ紹介します。
慣れない食材への抵抗感
多くの人々にとって、昆虫は食べ慣れない食材であり、見た目や食感に抵抗を感じる場合があります。文化的な背景や食習慣の違いも影響し、昆虫食の普及を妨げる要因の一つとなっています。
食物アレルギーのリスク
昆虫には、甲殻類(エビやカニなど)と類似のタンパク質が含まれているため、甲殻類アレルギーを持つ人は、昆虫食でもアレルギー反応を起こす可能性があります。また昆虫に与ええていた飼料が喫食者に影響する場合もあります。食物アレルギーを持つ人は、昆虫食を摂取する際に注意が必要です。
入手が難しい
現在、昆虫食は一般的な食材として広く流通しているとは言えず、入手が難しい場合があります。スーパーマーケットなどで手軽に購入できるようになるためには、生産体制の整備や流通網の確立が必要です。
昆虫食の活用事例
昆虫食は、その高い栄養価と環境負荷の低さから、将来の食料源として大きな可能性を秘めています。しかし、「昆虫を食べる」という食習慣がない文化圏では、抵抗感を持つ方も少なくありません。そこで重要となるのが、昆虫をいかに美味しく、そして抵抗感なく食卓に取り入れるかという工夫です。
近年、様々な企業や団体が、昆虫食の可能性を広げるべく、革新的な商品開発や情報発信を行っています。ここでは、その中でも特に注目すべき3つの事例をご紹介いたします。
事例1|無印良品「コオロギせんべい」
無印良品は、環境負荷の少ない食料としてコオロギに着目し、「コオロギせんべい」を販売しています。コオロギパウダーを使用することで、食べやすいせんべいとして昆虫食を提供しています。
事例2|バグズファーム「オオスズメバチ」
バグズファームは、食用昆虫の養殖・販売を行っている企業です。オオスズメバチなどの珍しい昆虫も食材として提供しており、昆虫食の可能性を広げています。
事例3|TAKEO「コオロギさんのあられ」
TAKEOは、昆虫食専門のオンラインストアを運営しており、「コオロギさんのあられ」など、様々な昆虫食の商品を販売しています。手軽に昆虫食を試せる商品を提供することで、昆虫食の普及に貢献しています。
食の未来の選択肢「昆虫食」
この記事では、世界の食糧問題の現状と課題、そしてその解決策の一つとして注目される昆虫食について、メリット・デメリットを含めて詳しく解説しました。
世界の食糧問題は、食糧不足による栄養不足・飢餓状態、需要と供給バランスの崩壊、先進国と発展途上国の食糧問題の違いなど、様々な要因が複雑に絡み合って発生しています。特に子供たちへの影響は深刻で、成長期の栄養不足は身体や脳の発達に遅れをもたらし、重度の栄養失調は命に関わる危険性もあります。
この深刻な食糧問題に対し、食糧支援や栄養教育など様々な取り組みが行われる中で、近年注目を集めているのが昆虫食です。昆虫食は、まだ一般的な食文化とは言えませんが、様々な商品が開発・販売されており、徐々に私たちの食卓に浸透しつつあります。
食糧問題は、私たち一人ひとりが無関係ではありません。日々の食生活における食品ロスを減らすことや、食糧問題に関心を持つこと、そして昆虫食のような新しい食の選択肢を知ることも、問題解決への第一歩となります。
NPO法人MOTTAIは、「もったいない」の心を大切に、食糧問題をはじめとする様々な社会課題に取り組んでいます。私たちの活動を通して、より多くの人々が食の大切さを認識し、持続可能な社会の実現に向けて共に歩んでいくことを願っています。ぜひ、この機会にMOTTAIの活動にもご注目ください。