食の課題

食品ロスを解決する?!注目のバイオ燃料と食糧問題の関係をわかりやすく解説 

食の課題

世界では、食料不足に苦しむ人々がいる一方で、大量の食品が廃棄されています。この矛盾を解決する可能性を秘めているのがバイオ燃料です。食品廃棄物を有効活用しエネルギーを生み出すバイオ燃料は、食糧問題と密接に関係しています。

この記事では、世界の食糧問題と食品廃棄物の現状、そしてバイオ燃料がもたらす可能性と課題について、わかりやすく解説します。

この記事でわかること
  • 世界の食糧に関する諸問題
  • 食糧問題が起きる原因
  • 食糧問題と食品廃棄物問題の矛盾
  • 食品廃棄物のエネルギー化(バイオ燃料)について
  • バイオ燃料を活用した取り組み事例5つ
この記事を書いた人
清水 みなみ

1997年生まれ、千葉県出身。千葉大学教育学部卒。在学中は幼保小の教育環境について学び、実践経験を積むためドイツへオペア留学。卒業後は訪問介護ヘルパーとして従事し、幼少期の教育と食育が高齢期にも大きく影響していることを実感。好きな絵本は「もったいないばあさん」、子ども達のより良い学びと食事の場を提供するべく現在奔走中。

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世界の食糧に関する諸問題

世界の食糧問題は、単に食料の絶対量が不足しているという単純な問題ではありません。食料の生産、流通、消費、そして分配といった様々な要素が複雑に絡み合っており、その解決には多角的な視点からの取り組みが不可欠です。

問題点1|食糧不足による栄養不足・飢餓状態

食糧不足は、深刻な栄養不足と飢餓状態を引き起こします。特に発展途上国では、慢性的な食糧不足により、必要な栄養素を十分に摂取できない人々が多く、発育阻害、免疫力低下、疾病リスクの増加など、深刻な健康被害をもたらしています。

FAO(国連食糧農業機関)の報告によると、2022年には世界で約7億3500万人が飢餓に苦しんでおり、これは世界人口の約9人に1人に相当します。

栄養不足は、特に子どもたちの身体的・精神的な発達に深刻な影響を与え、将来に渡って様々な困難を抱える可能性があります。飢餓は単に空腹を満たせない状態ではなく、生命の危機に直結する深刻な問題です。

世界の飢餓は2019年から2021年にかけて急激に増加し、同水準が続いた。
橙線:飢餓人口の割合 黒線:飢餓人口 (世界の食料安全保障と栄養の現状2022(SOFI)報告書

問題点2|需要と供給バランスの崩壊

世界的な人口増加、気候変動、紛争、経済状況の変動など、様々な要因によって食料の需要と供給のバランスが崩壊しています。

特に、気候変動による干ばつや洪水、異常高温などの異常気象は、農作物の生産に壊滅的な打撃を与え、食料価格の高騰や供給不足を引き起こし、最も脆弱な立場の人々を苦しめます。

また、先進国における肉食中心の食生活は、飼料穀物の需要を増加させ、発展途上国における食料価格の高騰を招く要因の一つとなっています。

問題点3|先進国と発展途上国の食糧問題の違い

先進国では、過剰な食料消費や食品ロスが大きな問題となっています。日本では年間約612万トンもの食品ロスが発生しており、これは国民一人当たり毎日お茶碗一杯分の食べ物を捨てている計算になります。(農林水産省「食品ロス量(令和3年度推計値)」より)

一方、発展途上国では、食料生産能力の低さ、貧困、インフラの未整備、紛争などが食糧不足の根本的な原因となっています。

また、先進国の食生活の変化(肉食中心など)が、発展途上国の食料生産や環境に影響を与えている側面もあります。

このように、食料問題は、国や地域によって異なる様相を呈しており、それぞれの状況に合わせた対策が必要です。

実質5%の食糧価格の上昇が子どもの消耗に及ぼす影響。(IFPRI
左から:性別、居住地、貧困状況、農地所有状況、貧困状況×農地所有状況

食糧問題が起きる原因

食糧問題は、複合的な要因によって引き起こされています。単一の原因で説明できるものではなく、様々な要因が複雑に絡み合って深刻化しているのが現状です。

原因1|自然災害による農作被害

干ばつ、洪水、異常気象などの自然災害は、農作物の生産に壊滅的な打撃を与え、食料不足を引き起こします。気候変動の影響により、これらの自然災害の頻度と深刻さは増しており、特に農業に依存する発展途上国では、食料安全保障が大きく脅かされています。近年では、気候変動に加え、砂漠イナゴの大量発生なども農作物に大きな被害を与えており、食糧問題の深刻化に拍車をかけています。

2019年以降、問題となっているアフリカのサバクトビバッタの大量発生(National Geographic

原因2|紛争による影響

紛争は、農業生産や食料の流通を妨げ、食料不足を深刻化させます。農地が破壊されたり、農作業を行うことが危険になったりすることで、食料生産が大幅に減少します。

また、道路や橋などのインフラが破壊されることで、食料の輸送が困難になり、必要な場所に食料を届けることができなくなります。避難民の増加も、食料支援の必要性を高めます。

原因3|慢性的貧困

貧困は、食料へのアクセスを阻害する根本的な原因の一つです。貧困層は食料を購入する経済力が低く、食料不足に陥りやすい状況にあります。

特に、農業に依存する人々は、天候不順や市場価格の変動などの影響を受けやすく、貧困から抜け出すことが難しい状況にあります。また、教育や医療へのアクセスが限られていることも、貧困の連鎖を断ち切ることを難しくしています。

食糧不足と食品廃棄物問題の矛盾

食糧不足と食品廃棄という二つの問題は、表裏一体の関係にあります。食料が不足している地域がある一方で、食べられるものが大量に廃棄されているという矛盾は、私たちが真剣に向き合わなければならない課題です。

食品廃棄物問題とは

食品廃棄物問題とは、本来食べられるはずの食品が、様々な理由で廃棄されてしまう問題です。家庭からの食品ロスだけでなく、食品製造業、流通業、外食産業など、食料サプライチェーン全体で発生しています。食品廃棄は、資源の無駄遣いだけでなく、廃棄物処理による環境負荷も問題となっています。

食品廃棄物の原因

食品廃棄物の原因は多岐に渡ります。家庭では、買いすぎ、作りすぎ、食べ残しなどが主な原因です。企業では、規格外品、賞味期限切れ、過剰在庫などが原因となります。

流通段階では、輸送中の破損や保管状態の悪化などが原因となります。これらの原因を一つ一つ見直し、対策を講じていくことが重要です。

消費者庁では家庭ごみを削減する行動を呼びかけています(消費者庁

知るべき5つの事実

国連世界食糧計画では、2030年までに食品ロスを半減する事が、17の持続可能な開発目標(SDGs)の一つでもあり、国連の最優先事項の一つとして、食品ロスに関する重要な事実をいくつか示しています。

その1

世界の食料生産量のうち3分の1が廃棄されている。

その2

食べられずに捨てられた食料は世界の20億人分に及ぶ。

その3

世界中で食料廃棄によって発生する二酸化炭素の量は、アメリカと中国に次ぐ3番目の排気量となる。

その4

先進国の食品ロスの量は、サブサハラアフリカ地域の食料生産量に及ぶ。

その5

開発途上国の食品ロスの4割は、収穫後と加工の段階で発生する。一方で、先進国では食品ロスの4割以上が小売と消費の段階で発生

WFP公式ホームページ(国連世界食糧計画

これらの事実は、食品ロス問題の深刻さを改めて認識させ、私たち一人ひとりの行動変容を促すきっかけとなります。

食品廃棄物のエネルギー化(バイオ燃料)について

食品廃棄物を有効活用する方法の一つとして、「バイオ燃料」への転換が注目されています。バイオ燃料とは、生物由来の資源、すなわちバイオマスを原料として製造される燃料のことで、植物由来のバイオエタノールやバイオディーゼル、微生物由来のバイオガスなどが代表例です。これらは化石燃料と異なり、再生可能な資源から生成されるため、持続可能な社会の実現に貢献する可能性を秘めています。

ここでは、食品廃棄物を活用したバイオ燃料に焦点を当て、その種類や製造方法、メリット、そして今後の展望について詳しく解説していきます。

バイオ燃料とは

8 産業用バイオソリューション事業を行うアンカー・ダニエル・ミッドランドカンパニー(ADM

バイオ燃料とは、生物由来の資源(バイオマス)を原料として製造される燃料です。植物由来のバイオエタノールやバイオディーゼル、微生物由来のバイオガスなどが代表的です。化石燃料に比べて、再生可能エネルギーであり、温室効果ガスの排出削減に貢献する可能性があります。

バイオ燃料が注目される理由

バイオ燃料が注目される理由は、化石燃料への依存度低減、温室効果ガス排出削減、地域資源の活用など、様々なメリットがあるからです。特に、食品廃棄物を原料とすることで、廃棄物削減とエネルギー生産という二つの課題を同時に解決できる可能性が期待されています。

バイオ燃料の需要と将来性

バイオ燃料の需要は、地球温暖化対策の推進やエネルギー安全保障の観点から、今後ますます高まっていくと予想されます。技術革新により、より効率的かつ持続可能なバイオ燃料の生産方法が開発されることが期待されます。

バイオ燃料が世界の食糧需給に与える影響(農林水産政策研究所

バイオ燃料を活用した取り組み事例5つ

バイオ燃料は、様々な原料と技術を用いて製造され、それぞれの特性を活かした用途で活用されています。ここでは、具体的な取り組み事例を5つご紹介します。

農林漁業バイオ燃料法

日本では、2008年に「農林漁業バイオ燃料法」が施行されました。

この法律は、農山漁村地域におけるバイオマス(生物由来の資源)を活用したバイオ燃料の生産と利用を促進することを目的としています。

具体的には、農林水産物や未利用資源を原料とするバイオ燃料の製造・供給体制の構築、バイオ燃料の利用促進、研究開発の推進などを支援しています。この法律により、地域資源の有効活用、地域経済の活性化、地球温暖化対策への貢献などが期待されています。

農林水産省では「農林漁業バイオ燃料法」を詳しく解説するパンフレットを公開しています。

事例1|バイオエタノール

バイオエタノールは、サトウキビ、トウモロコシ、米などの糖質やデンプン質を含む植物を原料として発酵させて製造されるアルコール燃料です。ガソリンに混合して使用されることが多く、ガソリンのオクタン価向上や燃焼効率改善の効果があります。

ブラジルでは、サトウキビを原料としたバイオエタノールの利用が広く普及しており、ガソリン代替燃料として大きな役割を果たしています。日本では、バイオエタノールを3%混合したガソリンが一部地域で販売されています。

株式会社ユーグレナでは次世代バイオ燃料「サステオ」を製造・販売しています。(株式会社ユーグレナ

事例2|バイオディーゼル燃料

バイオディーゼル燃料は、菜種油、大豆油、廃食用油などの植物油や動物性油脂を原料として製造されるディーゼルエンジン用の燃料です。既存のディーゼルエンジンに大きな改造なしに使用できるのが特徴です。ヨーロッパ

では、バイオディーゼルの利用が普及しており、バスやトラックなどの商用車で多く使用されています。日本では、廃食用油を回収してバイオディーゼル燃料を製造し、地域バスなどで活用する取り組みが進んでいます。

株式会社ダイセキではバイオディーゼル燃料に特化した事業を行っています。(株式会社ディーゼル

事例3|バイオジェット燃料

バイオジェット燃料は、植物油、藻類、木質バイオマスなどを原料として製造される航空機用の燃料です。従来のジェット燃料に比べて、ライフサイクル全体での温室効果ガス排出量を削減できる可能性があります。

航空業界では、持続可能性への意識の高まりから、バイオジェット燃料の導入が進められており、試験飛行や商業フライトでの使用事例が増えています。技術開発が進められており、将来的な普及が期待されています。

コスモ石油では「国産廃食用油を原料とするバイオジェット燃料製造サプライチェーンモデルの構築」がNEDOに採択されています。(コスモエネルギーホールディングス株式会社)

事例4|バイオガス

バイオガスは、家畜の糞尿、食品廃棄物、下水汚泥などの有機物を嫌気性発酵(酸素のない状態での分解)させて発生するメタンを主成分とするガスです。発電、熱供給、自動車燃料など、様々な用途に利用できます。

ヨーロッパでは、農業分野でバイオガスの利用が進んでおり、家畜糞尿を有効活用した発電や暖房などに利用されています。日本では、食品リサイクル法に基づき、食品廃棄物を活用したバイオガス発電などが推進されています。

8DOWAエコシステム(株)では、食品廃棄物を原料とするバイオガス発電事業を行っています。(DOWAホールディングス株式会社

事例5|「GREEN OIL JAPAN」宣言

「GREEN OIL JAPAN」宣言は、日本国内で使用済み食用油を回収し、バイオディーゼル燃料として再生利用する取り組みを推進する活動です。

自治体、企業、市民団体などが連携し、使用済み食用油の回収ネットワークを構築し、バイオディーゼル燃料の普及を目指しています。この取り組みは、廃棄物削減、地域資源の活用、地域経済の活性化などに貢献しています。

ユーグレナ社​では、「GREEN OIL JAPAN」宣言に賛同し、ともに実施、普及する協力団体・企業を募っています。(株式会社ユーグレナ社

バイオ燃料が拓く食とエネルギーの可能性

バイオ燃料は、食品ロス削減とエネルギー問題解決の両方に貢献する可能性を秘めた技術です。食品廃棄物を有効活用することで、廃棄物処理にかかるコストや環境負荷を削減できるだけでなく、再生可能エネルギーとして化石燃料への依存度を低減することができます。しかし、バイオ燃料の普及には、原料の安定確保、コスト削減、技術開発など、様々な課題があります。

この記事を通して、バイオ燃料と食糧問題の関係について理解を深め、食品ロス削減や持続可能な社会の実現に向けて、皆様一人ひとりができることを考えていただくきっかけとなれば幸いです。

ぜひ、NPO法人MOTTAIの活動にご注目いただき、ご支援・ご協力いただけたら幸いです。

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清水 みなみ

1997年生まれ、千葉県出身。千葉大学教育学部卒。在学中は幼保小の教育環境について学び、実践経験を積むためドイツへオペア留学。卒業後は訪問介護ヘルパーとして従事し、幼少期の教育と食育が高齢期にも大きく影響していることを実感。好きな絵本は「もったいないばあさん」、子ども達のより良い学びと食事の場を提供するべく現在奔走中。

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