『食育』ってよく聞くけど、具体的に何をすればいいの?と悩んでいる保育士さんも多いのではないでしょうか。
この記事では、食育の基礎知識から、子どもたちが楽しく食を学べる活動事例まで、わかりやすく解説します。食育を通して、子どもたちの食への興味を引き出し、健やかな成長をサポートしましょう。
・保育園における食育の重要
・食育活動のメリット
・食育プログラムの構成要素
・保育園での食育活動事例11選
今更聞けない!食育って何?
「食育」と一口に言っても、料理や食習慣、栄養学など「食」自体に関わる分野はとても幅広く、活動を始めたいと思ってもなかなかイメージがつきにくい方も少なくないのではないでしょうか。
ここでは「食育」の基本から、丁寧に解説していきます。
・食育の定義と目的
・乳幼児期の子どもにおける
・食育の役割 食育と食事の関係性
食育の定義と目的
食育とは「食育基本法」という法律の下、子どもたち及びすべての国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育むために、食に関する知識と正しい食習慣を身につけ、食を選択し、調理し、食べることを楽しむことができるようにすることを支援する活動のことです。
食育に関する施策を総合的・計画的に推進し、今と未来にわたる健康で文化的な生活と豊かで活力ある社会の実現に寄与することを目的としています。
実は「食育」は国家施策の一つでもあるのです。
これほどに食育が重要視される背景には、時代の変化に伴う下記のような「食」の問題がありました。
①栄養の偏り
エネルギーに占める脂質の割合が目標量上限値超える、一日の野菜摂取量が目標量に満たない。
②不規則な食事
家族一緒の食卓で特段の事情もなく別々の料理を食べる、いわゆる「個食」が散見される。朝・昼・晩の欠食が子どもを含めて目立つようになる。
③肥満、生活習慣病
肥満、糖尿病などの生活習慣病、若い女性を中心とした過度の痩身思考の増加。
④食の安全問題
BSE(牛海綿状脳症)問題等食品の安全性に対する国民の関心の高まり。
⑤伝統的食文化の喪失
地域の気候風土等と結びついた、米を中心とした多様な副食からなる「日本型食生活」等の喪失。

こうした背景により「食育基本法」は2002年に政府の調査委員会が立ち上がり、2005年に施行されました。基本理念を定めることで、国や地方公共団体などの責務が明らかになりました。今では全国的にあらゆる取り組みが広がっています。
乳幼児期の子どもにおける食育の役割

乳幼児期は、食に関する好みや習慣が形成される大切な時期です。特に 3歳までの食体験は、その後の食生活に大きな影響を与えるとされており、様々な食材や味に触れることが求められます。食育を通して、子どもたちは食への興味関心を高め、バランスの取れた食事を自ら進んで食べるようにすることがとても大切です。
身体の発達の基盤となる栄養バランスの重要性だけでなく、日常の食事機会を通して、料理や食材を直接目にすることで「食」に関する知識を深めるチャンスでもあります。
また食卓を囲って家族と共に食事をとるなどの環境が、コミュニケーション能力や社会性を育むことを促進します。
このように乳幼児期の食育は、味覚や身体の発達のを支え、将来的に健康なライフスタイルを自ら築けるようになるための基盤となります。
食育と食事の関係性
食べることは生涯にわたって続く、生き物の生活において基本的な営みです。そこにあえて「食育」を取り入れるわけは、単に食事の量や栄養バランスを配慮するだけでなく、食を通して「心」と「体」の両方を育むことを目指しているから。特に「食育」を通して健康的な食のあり方を考える、誰かと一緒に食事や料理をすることで人とのコミュニケーションを深める、さらに可能であれば食べ物の収穫を体験するなど、季節や地域の料理を味わったりするなど、実際に「食事をとる」という日々の実践が心身の健康に大きく寄与しています。
保育園における食育の重要性

食育は、生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎ととされるとともに、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践できる人間を育てるものです。家庭だけでなく、保育園でも「食育」を学ぶことで、子どもたちの日常生活に不足する「食」の知識と体験を補うことができます。近年、偏食や痩身志向などによる栄養不足や個食などの「食」に関する課題が増加する中で、正しい「食」に対する知見を持つことが求められています。
・食育目標「食を営む力」
・食と自然との繋がりを知る
・食を通して季節を感じる
食育目標「食を営む力」とは
「食を営む力」とは、食に関する知識や技能を習得し、自ら進んで食を選択し、調理し、食べる力を指します。保育園では、この力を育むことで、子どもたちが健やかに成長できるよう支援します。
「食育ピクトグラム」という、食育の取組をこどもから大人まで誰にでもわかりやすく発信するために、表現を単純化した絵文字であるピクトグラムがあります。農林水産省のホームページより、食育の取組についての情報を発信する際には自由に使うことができます。

食育ピクトグラム|農林水産省
食と自然との繋がりを知る
「食育の環」という、生産から食卓までの「食べ物の循環」、こどもから高齢者、そして次世代へといった「生涯にわたる食の営みの循環」を示す言葉があります。これによって、食の源が自然にあることを理解させ、子どもたちに命の大切さを教えます。もし実際に野菜の栽培や収穫体験を行うことができれば、子どもたちの食への感謝の気持ちは一層高まるでしょう。

食を通して季節を感じる
「食育」とは、食に関する知識や技術を学ぶことで、健康的な食習慣を育む教育です。特に子どもにとっては、味覚と食材の関係性を理解することが重要です。旬の食材を取り入れたり、季節の行事に合わせた食事を提供することで、自然の摂理を身体で学び、五感を育むことができます。さらに乳幼児期にさまざまな味に触れることで、味覚が形成され、将来の食の選択に影響を与えることができます。
園での給食は大きな影響をもたらします。家庭では食べれない、日々様々なメニューをいただくことで食材の種類や調理法を学ぶことができます。子どもたちはどんどん新しい味に挑戦し、自分の好みを広げていくでしょう。

また味覚は食事の楽しさにもつながり、園でみんなで食べるという共食の環境が食べることへのポジティブなイメージを育てます。これにより、子どもたちは健康でバランスの取れた食生活を自然と選ぶようになります。
食育活動のメリット

食育は、子どもから大人まで、あらゆる世代で重要視されています。特に乳幼児期の早いうちから食育に励むことで、将来の心身の健康に大きく影響をするでしょう。
例えば一日三食の食事機会を通じて、「家庭」と「園」の両方で学ぶことができます。
ここでは食育活動を行うメリットについてご紹介します。
・食習慣の形成
・健康へのポジティブな影響
・社会性の育成
食習慣の形成
幼児期の食育では、日常生活の中で味覚体験を提供することが重要です。具体的には、家庭での料理や食事の時間を活用し、子どもがさまざまな食材に触れられるように工夫します。
さらに、もし園で料理や収穫などの体験活動を行うことができれば、食材を洗ったり、切ったりすることで、食材の香りや色、テクスチャーを感じることができます。
こうした体験の連続がバランスの取れた食事を習慣化に繋がり、子どもの成長発育を促し、将来的に生活習慣病予防にもつながります。
健康へのポジティブな影響
乳幼児期の食育では、食事のバランスと栄養の重要性を理解させることが大切です。
例えば給食で色とりどりの食材を取り入れたプレートを用意すれば、視覚的にバランスの良い食事を認識します。主食、主菜、副菜、果物をそれぞれ配置し、どのような栄養素が含まれているかを体験的に学ぶことができます。
栄養のバランスを理解しやすくするために、簡単な栄養素の説明を加えることもおすすめです。こうして様々な食材を見て食べることで、栄養バランスを整える感覚を身につけることにも繋がるでしょう。

社会性の育成

食卓での会話を通じて、各食材の栄養価やその役割について話し合い、子どもが自ら選んで食べる機会を増やすことも大切です。園で友達と一緒に食事をすることで、食事のマナーについて考えたり、協調性やコミュニケーション育む良い機会が生まれます。
日々の食事機会を通して、栄養のバランスと重要性を学ぶことができ、健康的な食習慣を育むことができるのです。
食育プログラムの構成要素
保育園における食育の取り組みは、子どもたちの健康や成長に欠かせない重要な活動です。実際に食育プログラムを組む際には、食材の選び方や調理体験、食事のマナーを学ぶことができ、子どもたちの食に対する興味や理解を深められるような内容を検討する必要があります。
そこで今回は、保育園における食育の取り組みと保育園の食育プログラムと重要性やメリットについて詳しく解説していきます。
- 食材の選び方と調理方法
- 郷土料理を通じた食文化の理解
- 栽培体験を取り入れる
食材の選び方と調理方法

園での給食や料理体験において、どの食材をなぜ取り入れるのか子どもたちに伝えていくことが重要です。
例えば食材の選び方では、季節の野菜や果物を使い、地元の食材を取り入れることを教えます。これにより、食材の旬や地域の特性を学び、食べ物への関心を高められるでしょう。また、色や形、香りを感じることで、視覚や嗅覚を活用した学びも促進します。
また料理体験を行う際には、簡単な調理過程を通して、衛生管理や調理器具の使い方を教えます。子どもたちが自分で料理をすることで、食材の扱い方や味付けの工夫を学び、食への興味を深め、クッキング体験を通じて協力することや楽しむことの大切さを実感させることができるでしょう。

子どもたちが季節に合わせた食材を自分で選び、安全に食べられる調理方法を学ぶことで、食への興味を深め、健康的な食生活を見つけることができます。
郷土料理を通じた食文化の理解
食育プログラムの構成要素には、郷土料理を通じた食文化の理解も重要です。地域の伝統的な食文化に触れることで、食の多様性や歴史を学ぶことができます。
例えば、地元の食材を使った料理を一緒に作ることで、子どもたちは食材の由来や栄養価を実感できます。郷土料理を通じて、地域の伝統や文化を理解することも大切です。これにより、子どもたちは自分たちのルーツに対する誇りを持ち、他の文化への理解も深まります。
さらに郷土料理をみんなで味わうことで、自ずとコミュニケーションが生まれ、地域の一員としての意識を育てることにもつながるでしょう。
こうした食文化を理解する活動が、子どもたちの食に対する興味や理解を豊かにします。
栽培体験を取り入れる

食育プログラムにおいて、食べ物の栽培体験を取り入れる方法は、子どもたちの学びを深める効果的な手段です。野菜の種まきや収穫体験を通して、食の大切さを実感し、自然との触れ合いを深めます。
子どもたちが種をまき、水やりをし、成長を見守ることで、食材がどのように育つかを体験的に学び、栽培の過程では土や水、光の重要性についても教えます。
また、成長する過程を観察することで、食べ物への愛着が芽生え、食べることの大切さを感じられるでしょう。
収穫後には、自分たちが育てた食材を使って料理をする機会を設けることで、実際に食べる喜びを体験させることができます。

こうした体験が子どもたちの食に対する理解を一層深め、健康的な食習慣を育む基盤となるでしょう。
保育園での食育活動事例11選
- 事例①|紙芝居
- 事例②|絵合わせカードゲーム
- 事例③|野菜ビンゴゲーム
- 事例④|食材分類ゲーム
- 事例⑤|野菜の栽培
- 事例⑥|クッキング体験
- 事例⑦|バター作り
- 事例⑧|栄養ノート
- 事例⑨|給食フェア
- 事例⑩|特別食
- 事例⑪|園外体験学習
事例①|紙芝居

食に関する物語を紙芝居で聞かせることで、食への興味を引き出します。紙芝居の読み聞かせを通じて、子どもたちはキャラクターの感情を読み取ったり、物語の展開に心をときめかせることで、より効果的に「食」について関心を持つことができるでしょう。
「もぐもぐ」「むきむき」など擬音が入った、食事を擬似体験できるような作品は子どもたちの興味を強く惹きつけます。
紙芝居は手作りしていただいても良いですし、
食べ物や食育に関連した紙芝居は多く販売もされています。
事例②|絵合わせカードゲーム

食材の絵と名前を合わせるカードゲームを通して、食材の名前や特徴を楽しく学びます。
例えば、上記写真のような食べ物が書かれたカードを用意します。同じものを用意して神経衰弱のように遊んでも楽しいですし、カード一枚いちまいを手に取って、「酸っぱーい!」「甘い?」「カリカリ」など味や食感を思い出し、声に出して遊ぶ方法も。
食べ物の形や色の面白さに注目し、食事への興味関心に繋げられるツールです。
事例③|野菜ビンゴゲーム

手作りのビンゴカードを作成し、野菜の名前を読み上げ、ビンゴを楽しみましょう。
「苦いものです」「赤色をしています」「カレーライスに入っています」などと、食材の色や形状、栄養に関することをヒントとして読み上げても面白いです。
ゲームを通じて、野菜の名前を覚え、食への興味を高めることができます。
事例④|野菜スタンプ

野菜を使ってスタンプ遊びをすることで、野菜の感触や形を覚え、食への興味を深めます。
野菜を輪切りにし、断面に絵の具をつけ、画用紙などに形を写していきます。
端野菜の活用したアートの一つでもあり、食べ残しを考えるきっかけにもつながるでしょう。
もし環境を整えることが可能であれば、画用紙だけでなく、絵の具をインクを変えてトートバックやTシャツなどの布地に写すこともできます。
事例⑤|野菜の栽培

園庭で野菜を栽培し、成長を観察することで、食の大切さを学びます。
保育園で育てやすい野菜は下記の通りです。
- きゅうり
- ミニトマト
- なす
- ズッキーニ
- 枝豆
- ラディッシュ
- かぶ
- じゃがいも
- オクラ
- さつまいも
種まきや収穫だけでなく、水やりなどの世話を日々行うことで、野菜は土からできるものだと学ぶことができます。
成長の様子を写真や絵に残しておくと、その経過を振り返ることができます。
事例⑥|料理体験

料理は五感をフルに活動させる体験であり、食材の準備から調理、食事するところまで、一連の「食体験」をすることで感性を豊かに育てることが期待されます。
また子どもの手で料理を行うことで、自分で考えて行動する力を育みます。これは食事準備にとどまらず、「生きる上での土台づくり」にも繋がります。
もし可能であれば料理は子どもも大人も一緒に。ともに料理をすることで自然とコミュニケーションが生まれ、食への興味がより深まり、楽しい料理体験となるでしょう。
事例⑦|バター作り

二俣川園でのバター作りの様子。ペットボトルをふるのが難しい年齢でも、保育者が見せる形で牛乳がバターになる変化を楽しむことができます。
食に科学の要素を加えて、実験のように楽しめるのがバター作りです。材料もとても簡単で、生クリームと牛乳さえあれば作る事ができます。
導入の方法として、牛乳パックを子どもたちに見せながら「牛乳から作られる食べ物には何がある?」と尋ね、関心を持たせると良いでしょう。
ミルクに含まれる成分が分離する様子を見て、食品の製造過程を学んだり、バターが生み出された由来など食べ物の歴史に興味をもつきっかけにも繋がります。 学びの場.comではふって作るバターのレシピを紹介しています。
事例⑧|栄養ノート

東京都板橋区にある中板橋雲母保育園では、園の栄養士と保護者の間で、食育専用連絡帳「栄養ノート」のやりとりを行なっています。
食事の内容や感想をこまめに記録することで、親子共に食への意識を高め、栄養士側も子どもの食状況をより詳しく把握する事ができます。
栄養ノートは子どもに応じた食事量やアレルギーなどの細やかな配慮にも繋がり、子どもにとっても「食事をするのが楽しい!」と思えるきっかけに繋がっているのだそう。
事例⑨|給食フェア

実際に食材に触れたり、普段目にしないようなメニューを食育と絡めたイベントとして用意する事例もあります。
例えば食育に力を入れている中板橋雲母保育園では、「出汁」をテーマに給食フェアを行い、出汁のとれる複数の食材を触ったり、実際にその出汁を使った料理を食べたりして、味の違いや苦み、うま味などを味わう体験を行なっています。
他にも食材に注目するだけでなく、世界の料理や地域の伝統料理などを紹介することで、食の多様性を学ぶ活動を行っている事例もあります。
事例⑩|特別食

ひな祭りや端午の節句、七夕など、季節の行事や誕生日に合わせて、特別食を提供することで、「食」そのものを楽しむ心を育みます。
特別感を演出するだけでなく、「行事食」自体が日本でも古くから伝わる伝統文化の一つです。季節の変わり目や人生のふし目に、食べ物への感謝をこめて神様にごちそうをお供えし、神様と同じ物を食べて災いをはらい、農作物がたくさん実ること、健康でいられること、幸せが訪れることを願ってきました。
行事食を園で味わう事で、より食に関わる人や自然などへ、感謝の気持ちを考える機会にもなるでしょう。
事例⑪|園外体験学習

農園見学や体験、食品工場見学など、園外で食に関する体験をすることで、食への理解を一層深めることができます。
実際に農家さんの元へ出かけ、種まきや収穫を体験したり、日帰りでキャンに出かけ、生地からうどんを作り屋外で煮るなど、園ではできないような体験こそ、子どもたちにとっては大きな食体験の一つになるでしょう。
NPO法人 MOTTAIでも狩猟体験やモッタイナイトをはじめとした、「食」について考えるイベントを定期開催しています。
まとめ
食育は、子どもたちの健やかな成長を支え、自ら考え、自ら行動する生活習慣を育てる重要な教育の一つです。
安心できる保育園での食育活動だからこそ、子どもたちがのびのびと食育に取り組むことができ、食べることとはどういうことなのか「食」の裏側について考えることができるでしょう。
乳幼児期の様々な食体験を通して、より一層食への興味関心を高め、バランスの取れた食事を自ら進んで食べる習慣を身につけさせましょう。