食の教育

学校給食の食べ残しはどこへ?食品ロスを減らす、現場実践3事例

食の教育

学校給食は子どもたちが安定して食事をすることができる仕組みであり、子どもたちの成長を支える重要な機会です。その上、食育の教材としての役割も担っています。

しかし以前から給食の「食べ残し」が問題視されてきました。近年では減少傾向にあったものの、2020年度の新型コロナウイルス感染症流行の影響などにより、残食量が一時的に増加、けれど環境問題への意識の高まりや食育の推進、学校現場での様々な工夫によって、給食業界全体の「食品ロス」は再び減少に転じています。

本記事では「食品ロス」への関心が高まりつつある今だからこそ、学校給食の食べ残しの現状を分析し、全国各地の小学校で行われている効果的な実践方法をご紹介します。

この記事でわかること
  • 学校給食の食品ロス問題から見る、子どもたちの食事の現状
  • 学校給食での食べ残しが無くならない理由
  • 減らすだけじゃない!残食の活用方法
  • 意識で変えられる!残食を減らす現場実践
この記事を書いた人
清水 みなみ

1997年生まれ、千葉県出身。千葉大学教育学部卒。在学中は幼保小の教育環境について学び、実践経験を積むためドイツへオペア留学。卒業後は訪問介護ヘルパーとして従事し、幼少期の教育と食育が高齢期にも大きく影響していることを実感。好きな絵本は「もったいないばあさん」、子ども達のより良い学びと食事の場を提供するべく現在奔走中。

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1.給食の食べ残しの現状とは?

令和元年の文部科学省の調査によると、学校給食における食品ロスの量は、年間約4万tと推計されています。これは児童・生徒が一人当たり、年間17.2kgの食事を捨てている計算になります。

引用:学校給食から発生する食品ロス等の状況に関する調査結果について …

特に2020年度以降に流行した新型コロナウィルス感染症の影響で、感染対策による食事環境や配膳方法の変化だけでなく、長い自粛生活によって活動習慣の減少による食欲減退などが今も見られ、一部地域では残食量が増加しているという報告もありました。

現在減少傾向にあるとはいえ、食品ロスの削減は、国連のSDGs(目標12)にも挙げられるほど重要な課題です。これらの現状を踏まえ、給食や食育活動を通し、今後も子ども達の食習慣の改善や学校給食の提供方法の見直しなど、様々な対策を継続していく必要があります。

2.なぜ食べ残しは無くならないのか

学校給食の食品ロスの全体量は減っているものの、なぜ無くならないのでしょうか。実は食品ロスには喫食者だけでなく、調理段階での廃棄も含まれます。ここでは調理施設と学校現場、それぞれで起きている食品ロスの原因をご紹介します。

【調理施設の場合】

理由①|児童生徒数の変動への対応

急な欠席や、アレルギー対応食の調理などにより、予定していた人数よりも実際に食べる人数が減ってしまうことがあります。

理由②|食べられるところまで余計に取り除いてしまう過剰除去

食材を調理する際、傷んでいる部分や皮などを必要以上に除去してしまうことがあります。これは、安全性を確保するために行われることもありますが、結果的に食べられる部分が廃棄されてしまうことになります。

理由③|賞味期限や消費期限が過ぎた

食材の賞味期限や消費期限が切れてしまった場合、安全面を考慮して廃棄せざるを得ない状況も発生します。

【学校現場の場合】

理由①|量が多すぎる

食べ残しをする児童は全体の約4割と言われています。学校給食では、アレルギー対応などを考慮して多めに調理することもあり、学級単位での食べ残しにつながるケースがあります。

また児童生徒の食べる量に差があるにも関わらず、均一に配膳してしまうことも食べきれない子が出て、残食が出てしまう一因になっています。

理由②|給食時間が短い

準備時間や喫食中に、おしゃべり等に夢中になって食事時間が少なくなってしまう場合もあります。また配膳準備が遅くなるほど食事時間が短くなってしまうケースもあり、そのような場合に子どもたちは急いで食べなければならず、結果的に食べ残しが増える可能性があります。

理由③|苦手な食材がある

食べ残しをする理由で最も多いのが「嫌いなものがある」場合です。特に児童が苦手としているのはきのこ、ピーマン、野菜、豆など。また家庭で食べたことのないなど、食事経験が喫食に抵抗感を及ぼすケースもあります。

これらの原因がそれぞれ複雑に絡み合って、学校給食の食品ロスを生み出しています。各原因を一つ一つ丁寧に分析し、改善策を講じていくことが重要です。

3.残った給食はどこへいくの?

一般的に学校給食の食品ロスは、調理施設や学校だけでなく、地域社会全体で取り組むべき課題と考えられています。そのため残った給食は、それぞれに活用されています。

▼食品廃棄物のリサイクル率と内訳

引用:学校給食から発生する食品ロス等の状況に関する調査結果について …

堆肥化することで新しい命の源に

一部の地域では、学校給食の食べ残しをごみ処理施設で堆肥化し、学校菜園や地域の農家で肥料として配布し、そこで育った農作物を再び学校給食に利用しています。このようなシステムは「3R(Reduce 削減・Reuse再利用・Recycle再資源)」と呼ばれる循環型システムを推進する考えに基づき、2000年以降から徐々に浸透していきました。
この取り組みは食品ロスを資源として再利用するだけでなく、子どもたちに食と環境のつながりについて学ぶ機会を提供することにもつながっています。

しかし残念ながら、堆肥化できないものや、堆肥化施設がない地域では、食べ残しは焼却処分されることになります。これは、貴重な資源の無駄遣いであるだけでなく、焼却時にCO2が発生するため、環境にも悪影響を与えます。

4.食べ残しを減らす現場実践5事例

「給食を残さないようにしよう」という一言だけでではなく、子どもたちが美味しく楽しく、そして主体的に給食の食べ残しを減らすことに取り組めるような活動が各地で実践されています。ここでは3つの実践事例をご紹介していきます。ぜひ参考にしてみてください。

事例①| (京都府宇治市)給食時間の確保で残食65%減!「食べきり習慣」

宇治市では、「食べきり週間」と題して、午前の授業終了後に素早く切り替え、配膳から食事を開始するまでの時間を10分以内に済ませるように取り組んでいます。給食時間を十分に確保し、子どもたちが落ち着いて食事を摂れるように環境を整えたことで、食べ残しを児童一人当たり65%削減することに成功しました。

「食べきり週間」の間には、児童へ準備時間を短縮することの必要性を説明したり、準備時間にタイマーを使って時間を計測して素早い行動を促したり、子どもたちの意識を高めるアクションも併せて実施しています。さらに職員と児童が一緒に給食を食べながら、給食の大切さについて話し合うこともあるそうです。

参考:ペロリン週間の実践と効果 ~子供たちが考える食べ残し削減案~

事例②| (三重県大津市)地場産物を活用した新献立で食欲促進!Fun to Eat 楽色

大津市では「楽食(たのしょく)」をテーマに、給食の食べ残し削減に取り組んでいます。新たに食育の栄養教諭「楽食プロモーター」を配置し、子どもたちに楽しく・美味しく・たくさん食べてもらうための動画を作成(大津市YouTube チャンネルで公開中)。給食に使う食べ物の収穫の様子や農家の方へのインタビューなど、給食に関することを楽しく学べることを目的としています。

Fun to Eat たのしょく!大津市役所Youtubeチャンネル

他にも地元産の食材を積極的に活用したメニューを開発し、子どもたちの食欲を刺激することで、食べ残しを減らす取り組みを行っています。

事例③| (東京都練馬区)給食残食を全て堆肥化「練馬の大地」

練馬区では、区内の小・中学校の給食の食べ残しを全て堆肥化し、区内の農家で活用する取り組みを行っています。これには「農地が都市の環境を守り、資源循環を進めるまち」という練馬区のまちづくりプランが背景にあります。これにより単なる食品ロス削減だけでなく、学校給食から地域循環型社会の構築にも貢献しています。

練馬の大地-リーフレット

個の意識×配膳・献立の工夫で食べ残し問題は変わる!

給食の食べ残しは一人当たりで見れば大した量に思えないかもしれません。しかし全国の児童・生徒が集まると、大量の食品ロスが発生してしまっています。学校側の工夫と子どもたち自身の意識次第で結果はその結果は大きく変わっていきます。

様々な取り組みを実践し続けることは、環境へ良い影響を与えるだけでなく、子どもたちの食への学びにも繋がるでしょう。

5.まとめ

学校給食の食べ残しは大きな社会問題ですが、一人ひとりの意識と、学校や地域の取り組みによって改善することができます。食べ残しを減らす活動に取り組むことは地球全体への影響に関心を持ち、様々な視点から給食経験を見つめ直すきっかけになります。そこから通して得た学びは、その後の子どもたちの食習慣にも必ず影響するでしょう。まず自分のできることから、一歩ずつ始めてみましょう。

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プロフィール
この記事を書いた人
清水 みなみ

1997年生まれ、千葉県出身。千葉大学教育学部卒。在学中は幼保小の教育環境について学び、実践経験を積むためドイツへオペア留学。卒業後は訪問介護ヘルパーとして従事し、幼少期の教育と食育が高齢期にも大きく影響していることを実感。好きな絵本は「もったいないばあさん」、子ども達のより良い学びと食事の場を提供するべく現在奔走中。

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